2022年総まとめ

2022年総まとめ。かなり長いです。

 

目次

ドラマ

アボットエレメンタリー

フィラデルフィアにある予算不足の公立小学校が舞台。生徒を献身的にサポートする教職員たちもそれぞれの問題を抱えているのだけれど、完璧じゃないからこそお互いを補っていく姿が印象に残っている。そこで繰り広げられる会話もユーモアがあり、かつテンポが良くて終始笑いが堪えない。1話30分くらいで観ることができる。

アボット エレメンタリーを視聴 | Disney+(ディズニープラス)

一流シェフのファミリーレストラン

かつて一流レストランでシェフをしていたカーミーが、兄の死をきっかけに、シカゴでファミリーレストランの経営を任されることになる。Fワードと怒号が飛び交う描写は凄まじいのだが、人間の一筋縄ではいかない、内側にある葛藤みたいなものが見え隠れしていて、それがなぜか心地よく感じてしまう。あと料理が本当に美味しそうで、画面から匂いが漂ってくる。

一流シェフのファミリーレストランを視聴 | Disney+(ディズニープラス)

 

海賊になった貴族

18世紀に実在した海賊紳士、スティード・ボネットの波乱の航海を描いたロマンティック・コメディ。この作品の魅力は主人公と海賊“黒ひげ”のロマンスがしっかりと描かれているところ、そして「女らしい」と馬鹿にされてきた作業(例えば縫製)も男たちがやるところ、海賊としての給与が支払われるところ等。個性豊かな船員たちが織り成す群像劇が本当に楽しかった。

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ゴースト ボタン・ハウスの幽霊たち

歴史ある屋敷を相続することになった夫妻とその屋敷に住む歴代の幽霊たちのドタバタコメディ。1話30分(全6話)なので一気見した。「フレンズ」を楽しく鑑賞する幽霊たちが可愛すぎる。実はこの作品シーズン4まで製作されているのだけれど、日本ではまだ字幕版が出ていない。続きも観たい…!

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怪物

閉鎖的な田舎町を舞台に、刑事たちが凶悪殺人事件の真相に迫るという心理サスペンス。登場人物の一挙手一投足が見逃せない作りになっていて(全てに意味がある)、その巧みな表現に畏怖を感じて途中で息をするのも忘れていた。血縁関係に抗い、コミュニティで形成されるものを信じようとする姿も良かった。あと私のやおいレーダーがめちゃくちゃ反応する作品でもあった。

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映画

私ときどきレッサーパンダ

感情が昂るとレッサーパンダに変身してしまう少女の成長を描いた物語。母親との関係、信頼できる友人との会話、好きなアイドルを応援すること。「どれも大切なんだ!」という気持ちを音楽や映像、演出で見せてくれる。ポップで可愛くてすべてが素晴らしかった。

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ガンパウダー・ミルクシェイク

ダイナーから物語が始まる映画、良いに決まっとる。めちゃくちゃ強い女の殺し屋たちと8歳9ヶ月の少女が連帯し、「会社(ファーム)」の男たちと闘う熱いアクション。図書館が実は「武器庫」で、女性作家の本には「武器」が隠されてる設定、好きに決まっとる。飛び交う銃弾と血の雨、ポップでカラフルなアイテム達の相性が抜群。

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アメリカン・ユートピア

自分に脳が存在することを時々忘れてしまうんだけど、そういうときのためにアメリカン・ユートピアがあるんですね。脳も身体も心も活発になるライヴエンターテイメント。

「変化する可能性。不完全なこの世界で。そして不完全な自分自身も。私もまた、変わらなくてはならない」

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バスタブとブロードウェイ:もうひとつのミュージカル世界

ちょっとやそっとじゃ笑わなくなったコメディ作家が、“企業ミュージカル”というマイナージャンルにハマり、それが持つエンターテイメント力(ぢから)に魅了されて最後にはミュージカルを作ってしまう映画。実際に当時の出演者や作曲家に会いに行き、そこで聞いた話をまとめた本を出したりして、オタクの飽くなき探究心を見せつけられた。

バスタブとブロードウェイ: もうひとつのミュージカル世界/ブロードウェイとバスタブ - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画

 

クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園

家族愛テーマを控えめにしつつ、格差と競争社会に向き合う「かすかべ防衛隊」とその友情(しんちゃんと風間くん)に焦点が当てられている。“青春”は崇高なものと位置付けられがちだが、この映画では一人一人の青春は異なり、孤独や後悔などもその一つだと定義されていたのが良かった。

映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画

 

2022年公開の映画はほとんど観ていない。なんか映像を観ることで体力と精神を消耗してしまう時期に入っていたので、来年こそは色々観られたらいいな。

 

アニメ

万聖街

漫画家・零子还有钞先生によるWEB漫画「1031万聖街」が原作。主人公の心優しい悪魔のニールが、人間界で吸血鬼のアイラや狼人間のダーマオ、天使のリン、ミイラのアブーなど、“人ならざる者たち”と一緒に暮らす奇想天外な日常をコミカルに描いた中国のアニメ。私はこのアニメに救われました。いつも「心臓から一番遠い部位にかけ湯をする」精神でコンテンツを享受してたんだけど、万聖街に関しては「心臓に直接かけ湯をする」精神で飛び込んでいってしまう。日本語吹き替え版続編も決定したので、生きるぞ〜!

TVアニメ「万聖街」公式サイト

 

こちらも中国のアニメ。表向きは写真館を経営する2人だが、依頼があれば写真内の人間に「ダイブ」し、過去に起こった出来事の真相を探るというバディもの。ダイブした相手を救いたい感情と、「絶対に過去を改変してはならない」制約の間で右往左往する展開が熱すぎる。「他者の人生」に潜り込み、その人生を追体験することで初めて分かる痛みや悲しみ、無力感のなかで救いを見出そうとする様子などが丁寧に描かれている。ちなみに私は2話の女性2人がラーメン屋を経営する物語から、クィアな関係性を読み取りました。

TVアニメ「時光代理人 -LINK CLICK-」公式サイト

 

かげきしょうじょ!!

歌劇に情熱や青春を捧げる少女たちの煌めきとその残酷さを対比させるのが上手い。才能は劣るが男だから歌舞伎の舞台に立つことができる暁也と、ずば抜けた才能を持ちながらも女だから歌舞伎の舞台に立てなかったさらさが、それぞれ複雑な感情を抱きつつも飛躍していく姿が素晴らしいし、助六になれなかったさらさが男役として紅華歌劇団のオスカルを目指す展開も熱すぎる。

TVアニメ「かげきしょうじょ!!」公式サイト

 

アニメはあまり観てない。来年こそは…(略)

 

音楽

モーニング娘。'21「ビートの惑星」

youtu.be

 

ザ・おめでたズ「DANSU」

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Polyphia 「ABC feat. Sophia Black」

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Ellie Dixon「CEO of Watching Television」

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PAR「Song in Korean」

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BÉBE YANA「1-2-3」

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FLO,Happi「Cardboard Box [Happi Remix]」

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NCT 127「Vitamin」

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Beyoncé「PURE/HONEY

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IVE「After LIKE」

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とりあえずよく聴いたものを挙げてみた。

 

漫画


西修『魔入りました!入間くん』

私の2022年はこの作品に出会えたことで活気づいたと言っても過言ではありません。人間界で両親からネグレクトを受け、児童労働させられていた子ども・入間くんが最終的に大悪魔サリバンに売られて魔界で生活することになるのだけど、魔界ではちゃんとした大人から衣食住と教育を提供されて、初めてのお友達もできる。とんでもないことに巻き込まれていく一方で、自己を肯定し、己の中にある欲や野望を見つけていく物語でもある。「悪魔はもっともっと自由でセクシー」を追求する様々な描写は現代社会を生きるうえでの思考と通ずる部分があって、固定観念を覆していく気概を感じる。

 

いそふらぼん肘樹『神クズ☆アイドル』

仁淀ユウヤは顔がいい。お金のためだけにアイドルデビューを果たしたものの、本人は極度のめんどくさがり屋でやる気もないので歌わないし踊らない、ファンサービスもまったくしない。そんなある日、事務所からクビを宣告されたユウヤは、不慮の事故で亡くなった女性アイドルの最上アサヒの幽霊に出会う。死後もアイドル活動をしたいというアサヒを憑依させることで楽して稼ごうとするのだが…!?という物語。私はフィクション作品でよくある、「身体の入れ替わり(あるいは乗っ取り)で発生するラッキースケベ展開」が好きではないのだが、この漫画はそれがないので安心して読める(恋愛関係にも発展しない)。登場するオタクが個性豊かすぎるうえに語彙の数が凄まじい。会話のテンポも良くて読んでいるとつい声を出して笑ってしまう。


鎌谷悠希『しまなみ誰そ彼』

舞台は尾道。自分の性的指向に気づいた青年を軸に描かれる同性愛差別、偏見。複雑な心境とそれぞれの境遇が、談話室を通じて展開されていく。マイノリティだからこそ理解できること、それでも理解できないこと、誰かさんの「なんでも話して 聞かないけど」の意味など…。 今の日本で同性婚が認められてないの、どう考えてもおかしいな。1人でも生きていける社会制度が整ってないのはどういうこと?ただそこに存在しているだけで排除されるの、理不尽じゃない?そうやって言葉にして抗うことを私は諦めたくないし、これからも続けていくつもりだ。この漫画は私にその勇気をくれた。

 

スケラッコ『ここは鴨川ゲーム製作所』

祖母がホームに入居し、残していった空き家に住むことになったヨウは、そこで偶然子どもの頃に描いた絵を見つける。その瞬間ゲーム作りのアイデアが次々と湧いてきて、従兄のキク、キクの妻の友人カナデ、その友達のホーライと一緒に制作を始めるという物語。心身ともに健康ではない状態、他者と上手く波長が合わせられない、身体に障害がある、ゲイで同性のパートナーと暮らしている、ジェンダー不平等など…多様なバックグラウンドが描かれており、その人たちが「ゲームを作る」という目標に向かって切磋琢磨する姿がめちゃくちゃ良い。私は京都に馴染みがあってこの場所が大好きなのだが、それと同時に生きづらさを抱えた人間でもあるので、こういう漫画が読めることが純粋に嬉しいし早く2巻も読みたい。

 

シマ・シンヤ『GLITCH - グリッチ - 』

母親とその子供(姉妹)が引っ越してきた町で起こる不可思議な出来事の数々。その謎に迫るジュブナイルものなのだけど、さまざまな人種、人間じゃない“何か”、セクシュアリティの人間が当たり前に暮らし、存在している。この人物たちが事件の真相を調べるために町を探求する冒険譚…ワクワクしないはずがない。町で商店を営んでいる「サイさん」がとても好き。「ロスト・ラッド・ロンドン」も面白かったし、3巻が発売されるのも楽しみだな。


他に読んで良かったもの

TONOチキタ★GUGU
・平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ
・此元和津也『オッドタクシー』
山本美希『かしこくて勇気ある子ども』
・モクモクれん『光が死んだ夏』

 

読み切りで良かったもの

bloom - ミコマコト | 少年ジャンプ+

皇の器 - 織部匡 | 少年ジャンプ+

黒い羊 - 金田じゃんく | 少年ジャンプ+

美術部の上村が死んだ - 三崎しずか | 少年ジャンプ+

 

積読が結構あるので、2023年は消化していきたい。この世、面白い漫画が多すぎる。


BL

朝田ねむい『スリーピングデッド上/下』

高校教諭×マッドサイエンティストのゾンビBL。生かされたもの(佐田)と生かしたもの(間宮)同士の、人の犠牲のうえで成り立つ関係性は残酷でありながら、それでも儚く愛しい瞬間が確かにあって、その切実さがずっと胸の中に残るような物語だった。復讐劇は長くは続かず破滅の道を歩んでいく2人だが、それは共犯者としての繋がりだけではなく、佐田の「誰かを殺してでも生きたい」と間宮の「誰かを殺してでも生かす」という強い意思で構築されたものでもあり、他人からはその関係が歪んでいるように見えてもこの2人にとっては間違いなく真実なわけで。こんな精神と血肉のぶつかり合いをやってのける朝田ねむい先生って本当にすごい。


吾妻香夜『親愛なるジーンへ』※「ラムスプリンガの情景」のスピンオフ

1992年の夏。NYに住む伯父・トレヴァーの書斎で一冊の手記を見つけたジーン(トレヴァーの甥)。その手記には自分ではない“ジーン”についての思い出が綴られていたことから物語がスタートするBL。1970年代のストーンウォール以後、ベトナム戦争で揺れるアメリカで、ゲイの弁護士トレヴァーとアーミッシュの青年ジーンが出会ってから衣食住を共にし、そして別れ、また再会するまでの出来事が丁寧に描かれている。その中でそれぞれが自分の故郷や境遇について葛藤するのだけれど、言えないことを積み重ねていくのではなく、崩していくというか、絡まった糸を解いていく2人の対話がすごく良かった。

 

早寝電灯『罫線上のカンタータ

『手紙』で繋がるオムニバスBL。誰かが自分のために紡いだ言葉の尊さ、それが自分にとっての救いになる瞬間、聞きたいのに口に出せないこと、言わなきゃ伝わらないこと、時間が経ってから分かる意味など…読んでいて心が温かくなる。創作が誰かの力になるとか、居場所になるのも良い。あと私はBLにおける聞き間違い描写がすごく好きなんだけど(何故かは分からない)、「恋とエゴイズム」が「コギト・エルゴ・スム」に聞こえたシーンはニッコリ笑顔になった。

 

河内遙『カミキリムシ』

元同級生シムラ(男)×夫リキ×妻キミカ/ゲイのシムラの現在の恋を描いた「七階の女」が収録されたBL。私は河内遙先生の『夏雪ランデブー』を拝読してから(アニメも見た)、この人が描くBL読みてぇ〜と思って調べてたら見つかったので号泣した。46ページの中に、変わりゆく関係性や感情の機微などがぎゅっと詰め込まれており、本当にこの人が描くトライアングルは絶妙なバランスで成立しているなといつも驚かされる。人の感情をかき乱すような言動をとるシムラが、後半の「七階の女」では逆にかき乱されるという展開も良かった。

 

echo『トライ&アイラブユー』

同居中の幼馴染み・廉とたくみがお試しで付き合うことから始まるBL。恋人って何するんだ?と言いながら試行錯誤する2人の会話が面白くてひたすら癒される。デートは映画館で恋愛映画を観ることだよな!→結局アクション映画だな!って結末になるのとか最高。「俺の人生に廉が影響してるのと同じで、廉の人生にも俺が影響してたんだなぁ」と気づく場面も良かった。近すぎて見えなかったことに気づく人間の顔ほど、素晴らしいものはない。ちなみにレズビアンカップルも登場する。

 

他に読んで良かったもの

・プルガリア『ザ・ゴールデン・モーニンググロー・ロード』
・たらつみジョン『アルコホール・コミュニケイション』
・虫歯『天国 in the HELL』
雁須磨子『どう考えても死んでいる』
・tacocasi『うしみつどきどき古書店譚』
・ココミ『ロスタイムに餞を』
・嘉内『囀る鼓動』
・PEYO『ボーイミーツマリア』
・朝田ねむい『アイ、セイ』

並べてみるといろいろ読んだな。

 

三木那由他『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション』

フィクション作品に登場するキャラクターが、どういう意図を持って会話をしているのかを哲学的に考えた本。コミュニケーション(話し手と聞き手の間に約束事を形成していく)とマニピュレーション(話し手が聞き手に新たな行動を促し、感情を操作する)を駆使するフィクション作品の事例がたくさん出てきて面白かったし、普段の会話でも使っているな…と気づく瞬間もあった。会話の流れを作ることには良い側面と悪い側面があって、それがどういう風に機能しているのか分析して言語化する作業って大事だなと思った。三木那由他さんの「言葉の展望台」はまだ読めてないので、これを機に読みたい。インタビューも良かった。

三木那由他さん「言葉の展望台」インタビュー マイノリティの言葉に触れて、差別思想に抗って|好書好日

 

清水晶子、ハントンヒョン、飯野由里子『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』

例えばマイノリティが映画などに登場すると必ず「ポリコレ(棒)で叩かれる」とか「ポリコレに屈した」という言葉がSNSで広がっていく。私はその言葉の扱い方の適当さに怒りを覚え、当たり前にマイノリティが登場することを「原作者が嫌々出してる」とか、そんな失礼なことが何故言えるんだろう?とずっと思っていた。初めて『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』を読んだとき、このモヤモヤが言語化されており、補助線を引いてもらった気がした。「社会的な望ましさ」って一体何なのだろう。それを考えるために必要なこととは?対談形式で書かれているので、私も議論に参加している感覚になった。

 

荒井裕樹『まとまらない言葉を生きる』

SNSはネット空間だけの問題ではなく、もはや生活インフラになっている。その中で憎悪や差別などに加担する言葉の数々が、ものすごい速度で広がっていく。それはネットを利用するユーザーに限った話ではなく、政治家にも言えることで、権力のある人が平気で差別発言をする。果たしてそういう言葉が降り積もっていく社会は、生きやすいのだろうか。壊れていく言葉に抗うための言葉が私たちには必要ではないだろうか?
荒井裕樹さんはこの本で「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞しているのだが、このときの受賞スピーチがすごく良かった。

なにか特別に気負わなくても、その人がその人であることだけで自然に発するきらめきのようなものがあって、その一瞬一瞬のきらめきをごく自然に呼吸するように言葉で紡ぎたいと思うのです。私はこれからも、こうした感覚を言葉にしたいと思っています。

言葉の網目で個をつつむ|荒井裕樹|第15回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞スピーチ【全文公開】|かしわもち 柏書房のwebマガジン|note

 

ファン・ジョンウン(著)、斎藤真理子(訳)『年年歳歳

戦争によって人生を変えられ、従順な子として育てられた母親とそれを知らない現代を生きる娘たちの物語。それぞれが言えない言葉を胸にしまいこんでいるが、その隠された部分は社会が個人にかけてきた抑圧でもある。今を手探りで生きている私たちにとって、この物語はとても大切で切実なものだと思った。訳者のあとがきにある時代説明も分かりやすかったし、著者が「年年歳歳」というタイトルを付けた理由も心に強く残った。

 

サラ・ピンスカー(著)、市田泉 (訳)『いずれすべては海の中に』

全13篇が収録されているSF短篇集。過去の喪失感と未来への希望を抱えながら懸命に生きる人、生き方を見つけた人、そして当たり前にクィアがいる温かい作品。それぞれの物語がきっちり終わるわけではないという部分は、この本の『風はさまよう』にある「歴史」の解釈に通ずるものがあるなと思った。どの話も好きだけど私は『孤独な船乗りはだれ一人』『深淵をあとに歓喜して』『そして(Nマイナス1)人しかいなくなった』が特にお気に入りです。

 

他に読んで良かったもの

・マーサ・ウェルズ『マーダーボット・ダイアリー上/下』
(『ネットワーク・エフェクト』と『逃亡テレメトリー』はまだ読めてないので、2023年は必ず読む。)
・北村紗衣『批評の教室 ──チョウのように読み、ハチのように書く』
・北村紗衣『お砂糖とスパイスと爆発的な何か: 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』
・ステファニー・スタール(著)、伊達尚美(訳)『読書する女たち フェミニズムの名著は私の人生をどう変えたか』
・鄭喜鎭(編著)、権金炫怜・橌砦昀・ルイン(著)、金李イスル(訳)、申琪榮(監修)『#MeToo政治学―コリア・フェミニズムの最前線』
・香月孝史、上岡磨奈、中村香住『アイドルについて葛藤しながら考えてみた   ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉』
・年森瑛『N/A』

本も積読が山ほどある…。

 

2022年は色々あって人生はどん底だったけど、物語に救われた。ヤマシタトモコの『違国日記』4巻にある槙生の言葉「物語はいわばかくまってくれる友人でした」を何度も思い出した。2023年も頑張ります。